「相続した不動産を売って現金化しよう」と考える方は多いと思います。
しかし実際には、思わぬ落とし穴が潜んでいることをご存じでしょうか。
特に1950〜70年代に建てられた鉄筋・鉄骨の建物は「アスベスト問題」を抱えている可能性が高く、処分や売却の際に大きな費用がかかるケースがあります。結果として「売ったのにお金が残らない」「むしろ赤字になってしまった」という相談も少なくありません。
この記事では、岡山で実際にあった相談事例をもとに、相続不動産とアスベストの関係、売却時のリスク、そして解決のための選択肢について詳しく解説していきます。
アスベストとは?なぜ相続不動産のリスクになるのか
アスベストは石綿(せきめん)とも呼ばれる鉱物繊維で、耐火性・断熱性・防音性に優れているため、1950年代から1970年代にかけて建築資材として広く使われてきました。ビルやマンション、工場、一般住宅の壁や天井、断熱材などに利用され、当時は「夢の建材」とも呼ばれていたのです。
しかし、のちにアスベストは人体に深刻な健康被害をもたらすことが分かりました。吸い込むと肺に蓄積し、石綿肺や中皮腫などの重大な病気を引き起こす可能性があります。現在では使用が全面禁止されていますが、古い建物には依然として多く残っているのが現実です。
相続で受け継いだ物件がこの時代に建てられた鉄筋・鉄骨造の建物であれば、高い確率でアスベストが使われている可能性があり、売却や解体をする際に大きな負担となります。つまり「古い不動産を相続した」というだけで、隠れたリスクを背負い込むことになるのです。
相続不動産とアスベスト問題の現実
岡山で実際にあったご相談のケースをご紹介します。
相続で取得した自宅兼事務所の売却案件でした。
■物件概要
築年数:昭和50年代
構造:鉄筋コンクリート造4F
補足:1Fピロティー(外観からも「アスベストが使われていそう」)
査定を行ったところ、金額が1,200万円、
ところが解体業者に相談したところ、600万円!
さらにアスベストの撤去に約800万円が必要!
つまり
査定額:1,200万円
解体費用:600万円
アスベスト撤去費用:800万円
∴1,200万円-600万円-800万円=-200万円
結果として、キャッシュが-200万円の赤字査定になり、場合によっては更なるコストがかかる可能性があります。
こうした事例は決して珍しくありません。
特に1950年代〜1980年代に建てられた鉄筋・鉄骨造の建物は、アスベストリスクが高いため、売却=利益とは限らないのです。
アスベストが引き起こす3つの大きなリスク
相続した不動産にアスベストが含まれている場合、どのような問題が起こるのでしょうか。主に次の3つが挙げられます。
- 解体・除去費用が高額
建物の解体に加え、アスベストの処理が必要になります。規模によっては数百万円単位、場合によっては1000万円近い費用になることもあります。 - 買い手がつかない
投資用や再建築用に売却を考えても、アスベストがあると敬遠されることが多く、思うように買い手がつきません。結果として売却までに長期間かかる、もしくは値下げせざるを得なくなります。 - 管理コスト・リスクの増加
放置してしまうと劣化が進み、近隣に粉じんが飛散するなどのトラブルを招く恐れがあります。その結果、修繕や安全対策に余計なコストがかかる可能性があります。
このように、アスベスト問題は「売れない」「費用がかかる」「維持できない」という三重苦をもたらします。
事例で学ぶ:選ばれた解決策
先ほどの岡山の事例では、最終的に「賃貸用として投資家に売却する」という選択がなされました。
具体的には、相続人が直接賃貸経営をするのではなく、「サラリーマン大家」と呼ばれる個人投資家に物件を安く譲渡し、その人が賃貸物件として活用する形です。
この方法を取ることで、相続人は「解体費用やアスベスト除去費用を負担せずに済み、手出しゼロで物件を処理」することができました。買い手にとっても、賃貸物件として収益化できるメリットがあり、双方にとって納得のいく解決策となったのです。
このように「必ずしも自分で売却や処分をする必要はなく、投資家に託す」という選択肢があることを知っておくのは重要です。
相続不動産のアスベスト問題への対処法
アスベストリスクを抱えた相続不動産に直面したとき、どのように対応すれば良いのでしょうか。
- まずは事前調査をする
建物の築年数・構造を確認し、専門家に依頼してアスベスト調査を行います。 - 専門家に相談する
解体業者、不動産鑑定士、司法書士など、それぞれの分野の専門家に相談することで、費用や法的なリスクを事前に把握できます。 - 売却以外の選択肢を検討する
- 賃貸に出す
- 投資家に売却する
- リフォームして活用する
状況によって最適解は異なります。
- 相続人同士で早めに話し合う
「どう処分するか」が決まらないまま放置されると、費用が膨らみトラブルの原因になります。
まとめ:相続=すぐ売却、は危険
相続不動産を手にしたとき、「まず売って現金化しよう」と考えるのは自然なことです。
しかし、特に1950〜70年代に建てられた鉄筋・鉄骨造の建物には、アスベストという大きな落とし穴が潜んでいます。
- 売却益がほとんど残らない
- 解体や除去費用で赤字になる
- 買い手がつかない
こうしたリスクを避けるためには、事前調査と専門家のアドバイスが欠かせません。
相続不動産の出口戦略は「売る」「貸す」「活用する」とさまざまですが、安易に売却に踏み切るのは危険です。まずは冷静に状況を整理し、最適な方法を見極めましょう。